社労士試験に独学で合格するためには、効率よく勉強を進めることが必要不可欠です。
まずは出題回数の多い論点=必須論点を中心に勉強し、土台となる基礎力をしっかりとつけていきましょう。
その上で、出題回数の少ない論点にも手を伸ばしていくのが効率のよい勉強法です。
私もそうでしたが、独学で勉強する場合は
- どの科目のどの単元から手をつければいいのか
- 労働基準法を終えるだけで数か月かかってしまった
- テキストや問題集を1回しか読む(解く)ことしかできなかった
などなど、とにかく時間が不足して後悔することが多いです。
だからこそ、必須論点を中心に効率よく勉強して実力をつけていきましょう!
労働基準法 - 総則 -
今回はほとんどの人が最初に勉強する労働基準法についてです。
労働基準法は時間外労働や年次有給休暇に関する法律など、社会人の方たちにとっては比較的身近な法律です。
そのため比較的取り組みやすい科目になります。
とはいえ、私のような人事労務担当者であっても実務上使うことはほぼないのに、試験への出題頻度は高いといった論点も数多くあります。
身近だからといって油断しないようにしましょう!
労働基準法で定める労働条件
- 労働基準法で定める労働条件の基準は最低のものである。
- 労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。
『この基準を理由として労働条件を低下させてはならない』がポイントになります。
労基法を理由にして労働条件を改悪しないように!というのが伝えたいことです。
具体的には
- 1日の労働時間(所定労働時間)を7時間と定めていた企業が、労基法での法定労働時間が8時間ということを理由に、1日の労働時間を8時間に変更すること(労働時間を1時間延長すること)。
- 残業時間(時間外労働)の割増率を35%としていた企業が、労基法(政令)で定められた率が25%以上ということを理由に、割増率を25%に変更すること(割増率を10%下げること)。
ということが考えられます。
組合交渉をしていると思うことがよくありますが、期間限定で遠方の事業場に応援に来ている方たちの応援手当の金額を下げたり、住居費の会社負担額を下げたり(100%負担から50%負担)しようとすると烈火のごとく反対にあいます。
ここからも労働条件を下げることの難しさが垣間見えますね…
労働時間や休憩などの労働条件を低下させる場合、その根拠・理由は何なのかを意識する
家事使用人
- 労働基準法は、家事使用人については、適用されない。
『家事使用人』に該当するかどうかがポイントになります。
判断する際のポイントは、『家庭における家族の指揮命令の下で家事に従事するのか』あるいは『家事代行業を事業とする企業に雇われて、その指揮命令の下で家事に従事するのか』になります。
- 法人に雇われ、その役職員の家庭において、その家族の指揮命令の下で家事一般に従事している者は、家事使用人に該当する。(平成11年3月31日基発168号)
- 個人家庭における家事を事業として請け負う者に雇われて、その指揮命令の下に当該家事を行う者は家事使用人に該当しない。(平成11年3月31日基発168号)
今では企業を経由して家事代行サービスを依頼することも増えてきていますし(これは家事使用人に該当しないパターンですね)、自動食洗器やロボット掃除機などが普及してきていることからも、家事使用人と直接契約を結ぶことは非常にレアになりましたね。
とはいえ、試験に出やすいポイントなので覚えておきましょう。
家事使用人に該当するかどうかは、誰の指揮命令の下で家事に従事しているかを意識する
労働者の定義
- 労働基準法で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
『使用されるもの』かつ『賃金を支払われるもの』に該当するかがポイントになります。
その上で、使用者の指揮命令下にあるかどうかが実務上でキーとなる考え方です。
教育であれ、資料作成であれ、移動時間であれ、労働時間に該当するかどうかは
『使用者の指揮命令下』にあるかどうかを常に意識して判断する
が大切です。
使用者の定義
- 労働基準法で「使用者」とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。
労働基準法では『使用者』を以下の通り定義しています。
- 事業主
- 事業の経営担当者
- 事業主のために行為をするすべての者
①事業主に関しては、個人事業主であれば個人事業主そのもの(人そのもの)、法人であれば法人そのもの(企業そのもの)を指すので注意が必要です。
『使用者』は部長や課長などの名称で判断するのではなく(世に言う名ばかり管理職ではなく)、実態として権限を持っているかどうかが判断のポイントになります。
具体的には以下の通りです。
- 出退勤の時間を自分の裁量を持って決められるかどうか
- アルバイトの採用可否を自分の裁量を持って決められるかどうか
- 時給換算した際に十分な給与が支払われているかどうか
サービス残業が多すぎて時給換算すると時給800円しかもらえていないというのであれば、名ばかり管理職の可能性が極めて高いです。
名称だけで判断せず、実態として権限を持っているかどうかを意識する
労働者派遣
ドラマなどの影響もあって『派遣』という言葉はものすごく浸透しています。
ただこの派遣契約という形態は、労働基準法の枠組みの中でみると非常に特殊なものとなっています。
- 労働基準法は、本来、労働者と労働契約関係にある事業に適用される
- そのため、派遣労働者と労働契約関係にある派遣元事業主に適用される(責任を負う)
- 労働契約関係にない派遣先事業主には適用されない(責任を負わない)
- しかし、派遣先事業主が派遣労働者に対して業務遂行上の指揮命令を行うという特殊な労働関係にある
- ゆえに、派遣先に責任を負わせることが適切な事項には、派遣先事業主にも適用する(責任を負わせる)
例えば、労働時間・休憩・休日などの就業管理に関わることは、派遣先事業主が責任を負うことが多いです。
派遣労働者と労働契約関係にあるのは派遣元事業主、指揮命令関係にあるの派遣先事業主
男女同一賃金の原則
- 使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない。
ポイントは、男性と差別的取扱いをしてはいけないのは『賃金』のみと表現していることです。
例えば、年休付与日数を少なくしたり休憩時間を短くしたりしても、法4条違反に問われることはありません。
とはいえ、男女雇用機会均等法違反に問われることはありますが…
賃金についてのみ男性との差別的取扱いが禁止されている
公民としての権利
公民としての権利=公民に認められる国家又は公共団体の公務に参加する権利です。
ダイレクトに「これは公民の権利ですか?」と聞いてくる問題も多いので、しっかりと覚えることが大切です。
- 公職の選挙権及び被選挙権
- 最高裁判所裁判官の国民審査
- 地方自治法による住民の直接請求
- 行政事件訴訟法による民衆訴訟
- 選挙人名簿に関する訴訟や選挙又は当選に関する訴訟
公民としての権利の具体例を暗記する
中間搾取の排除
- 何人も、法律に基づいて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。
『法律に基づいて許される場合の外』とは、職業安定法及び船員職業安定法に基づく有料職業紹介事業などが該当します。
また、日々の業務を進める上で派遣社員の方たちとの接点も多いのですが、「なぜ派遣事業は中間搾取の排除に違反しないのか?」と疑問に感じていました。
社労士の勉強を始める前までは「労働者派遣法という法律に基づいて許されるから違反しない」と解釈していましたが、
労働者派遣事業という事業が、そもそも「業として他人の就業に介入して利益を得て」いない
という解釈から中間搾取には該当しないそうです(正直納得できていませんが)。
法律に基づいて許される場合の外、中間搾取は認められていない
賠償予定の禁止
- 使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
あくまでも金額を予定する契約をしてはならいということがポイントとなります。
具体的には以下内容を契約書に織り込んではいけないという意味です。
- 期間満了前に退職したら10万円の違約金を支払うこと
- 遅刻したら1万円のを罰金を支払うこと
- 社有車で交通事故を起こしたら100万円の罰金を支払うこと
そのため、現実に生じた損害について賠償を請求することは禁止されていません。
例えば、本人の不注意で会社備品を破損させた場合、その修理代(実費)を請求することは法律違反になりません。
修理代の実費請求や弁償そのものを禁止する法律ではないので注意しましょう。
金額を予定することを禁止するものであり、賠償そのものを禁止したものではない
前借金相殺の禁止
- 使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない。
ポイントは『使用者』の相殺が禁止されているということです。
つまり、労働者の自由意志の下で相殺することは禁止されていません。
あくまで主語が『使用者』の場合に適用されます。
もし仮に労働者が前貸の債権と賃金の相殺に合意した場合であっても、使用者が相殺することは禁止となります。
主語が『使用者』なのか『労働者』なのかを意識する
強制貯金の禁止
- 使用者は、労働契約に附随して貯蓄の契約をさせ、又は貯蓄金を管理する契約をしてはならない。
ポイントは、労働契約に付随した貯蓄の契約=強制貯金が禁止されているということになります。
平たく言うと、「貯金しないと入社させません(労働契約は締結しません)」という意味です。
なお、任意貯金は認められています。
- 使用者は、任意貯金(労働契約に付随せず労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理すること)をする場合においては、労使協定を締結し、これを所轄労働基準監督署長に届け出なければならない。
任意貯金をするには、労使協定の締結+労働基準監督署への届出が必要になります。
まずはここをしっかりと抑えた上で、社内預金と通帳保管の2種類があることを抑えておきましょう。
その上で社内預金をする場合は、最低利率年5厘の利子をつけなければいけません。
ただ、年5厘=0.005%なんですよね。
労働基準法では、こんな低い利率しか保証してくれないのかと驚きました。
一方、メガバンクの普通預金金利は0.001%程度しかありません。
労働基準法すら下回っています。
そう考えると年5厘も決して低い利率ではないのかと勘違いしそうになります(笑)
任意貯金には、労使協定の締結+労働基準監督署長への届出が必要
労働基準法 - 総則まとめ -
厳選しましたが労働基準法総則だけでも必須論点が11個もあります。
当然ここにも載せきれない論点もありますが、まずは必須論点を確実に覚えて労働基準法を得点源にしていきましょう!
- 労働基準法で定める労働条件
- 家事使用人
- 労働者の定義
- 使用者の定義
- 労働者派遣
- 男女同一賃金の原則
- 公民としての権利
- 中間搾取の排除
- 賠償予定の禁止
- 前借金相殺の禁止
- 強制貯金の禁止
次回は『労働基準法 - 労働契約 -』について学んでいきます